キヤノン135ミリF3.5 III




 キヤノン距離計連動交換レンズとしてはもっとも長焦点距離のレンズです。
 キヤノンに限らず、本場ライカでも国内ライバルのニコンでも距離計連動する交換レンズの最長焦点距離は押しなべて135ミリを上限とするメーカーが大方でした。これは言うまでも無く距離計の測距精度の限界だからです。
 ほぼ2社の例外としては旧西独ツァイス時代のコンタックスでラインナップされていたテレテッサーK180ミリF6.3とオリンピアゾナー180ミリF2.8、日本のコムラー200ミリF4.5がありましたが、テレテッサーKは戦後生産停止となりオリンピアゾナーはフレクトスコープと称するレフボックス用にマウント変更を受けています。日本のコムラーは最短撮影距離を8mと長めにとってあり距離計像を拡大するマグニファイヤーがセットになっていました。どちらにせよ撮影はさぞや困難を伴ったであろう事は容易に予想がつきます。昔のカメラマンの根性には恐れ入ります。
 キヤノンでは135ミリ以上のレンジファインダーカメラ用交換レンズとしてキヤノン200ミリF3.5、同400ミリF4.5、同600ミリF5.6、セレナー800ミリF8,同1000ミリF8と200ミリから1000ミリまでのラインナップがあり、さすがは後の大キヤノンの片鱗を1950年代から見せ付けておりますが、これらの超望遠レンズ群は全てレフボックスという一眼レフファインダーをレンズとカメラボディの間に介して撮影するもので、実質一眼レフレンズと言ってよく、距離計に連動する訳ではありません。
 今や便利な一眼レフが当たり前に流通している時代では、レンジファインダー用のミラーボックスは骨董品的価値はともかく実用的とは言えず、135ミリまでがレンジファインダーカメラの上限となります。
 最近ではコンタックスG1,G2やコシナフォクトレンダー/ツァイス・イコンでは最長焦点距離のラインナップを85〜90ミリまでとしており、135ミリでもメーカー側としてはピント精度は保証しかねるというのが本音なのかもしれません。

↑作例1)一家だんらん。お母さんの背中にぴよちゃんもいます。
キヤノンVI・L、キヤノン135ミリF3.5、F4、1/500秒、フジクロームベルビア100
↑作例2)タロの剥製標本。
キヤノンVI・L、キヤノン135ミリF3.5、F3.5、1/8秒、フジクロームプロビア100F

 日頃から「一眼レフは望遠を使いたいから使うカメラ。レンジファインダーは標準から広角を使いたいから使うカメラ。」と使い分けている筆者としては好き好んでレンジファインダーに135ミリを着けて持ち歩くことはあまりないのですが、この135ミリは望遠にしては全長10cmというコンパクト設計のおかげで、カメラバッグの片隅にお守り代わりに入れて持ち歩ける大きさなので、レンジファインダーしか持ってこなかった時や手持ちの一眼レフが他のレンズで塞がっている際の「非常用」として購入しました。
 作例1は一眼レフに600ミリの長タマを着けて撮影中に親子がどんどん近づいてきたため、スナップ用に持ってきたキヤノンVI・Lに135ミリを装着して働いてもらいました。
 作例2は、普通はこういう三脚に載せる使い方はレンジファインダーではしないのですが、最短撮影距離+絞り開放で、どこまでピント精度と画質が得られるか確認のために撮影しました。予想以上のシャープさに驚きました。
 ピントは見ての通り、距離計の測距精度が追いつけば十分シャープ。わざとらしくない程度に鮮やかで、さわやかな発色でカラーリバーサルでの撮影に十分堪えられます。現代のレンズと一緒に使って遜色ありません。
 レンズ構成はトリプレットの中心を肉厚の2枚張り合わせにした3群4枚構成。85ミリ100ミリまでもガンコに対称型ガウス構成を採用し重厚長大な望遠レンズが多かったキヤノンにしては珍しく135ミリは初代のセレナーから非対称構成で、85ミリや100ミリよりもコンパクトにまとまっていました。ただし構成図を見てお分かりのように中央の凹エレメントがガラス塊と言って良い程肉厚なので、見かけの割には440gとかなりずっしりきます。

(←構成図)3群4枚
ゾナータイプ
画角:18度
最小絞りF22
最短撮影距離1.5m
フィルター:48mm
重さ:440g
発売:1961年


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