キヤノン85ミリF1.8
1961年発売のキヤノン最後のレンジファインダー用85ミリレンズです。設計はかの50ミリF0.95で有名な向井二郎氏。
このコンテンツではすっかりお馴染みの向井二郎氏はとにかく大口径レンズ命の方だったようで、他に35ミリF2や100ミリF2も設計されています。
改めて向井二郎氏について調べてみると、この方は映画用ズームレンズの設計で1972年にハリウッドのアカデミー賞で科学技術賞を受賞された世界的なレンズ設計の権威だそうです。キヤノン退職後は天体望遠鏡メーカーに転職され、F0.66(←ほとんどアッベの正弦条件の限界F0.5に肉薄してます!)のレンズを設計されています。
レンズの話に戻すと、このレンズは同時発売で一眼レフのキヤノンフレックス用Rレンズとしても発売され、FLレンズにもそのまま同じレンズ構成で採用され1974年発売のFD85ミリF1.8で設計変更されるまで生産され続けました。
1961年当時、キヤノンはレンジファインダーのキヤノン7と一眼レフのキヤノンフレックスを同時販売しており、一眼レフとレンジファインダーの両方に交換レンズを供給していました。1990年代のFDレンズとEFレンズの同時供給に匹敵するレガシーコストで、当時のキヤノンはレンジファインダーシステムの維持にコストを奪われニコンFに匹敵する最高級一眼レフ(1971年発売のキヤノンF−1)の発売に出遅れるという苦汁を飲んでいます。なるべく設計コストを圧縮すべく、一眼レフとレンジファインダーでレンズ構成を共通化できる中望遠レンズは同じ設計を導入する事はしごく当然の流れと言えます。
キヤノンはレンジファインダーカメラ初期より85ミリレンズの大口径化には熱心な会社で1951年にはすでにセレナー85ミリF1.9を、1952年には同85ミリF1.5を発売しています。このセレナー85ミリF1.5は後にキヤノン名に変更後も生産され続けキヤノン85ミリレンズの頂点を担っていました。この85ミリF1.8はその普及型であると言えます。
セレナー85ミリF1.5が4群7枚。前ゾナーで後ろガウスの折衷という肉厚構成だったのに対して、この85ミリF1.8は4群5枚。クセノター構成という軽量化した構成となっております。
この、大口径ながら簡略化した設計のため、セレナー85ミリF1.5の価格が63.000円に対し、このキヤノン85ミリF1.8は31.000円と半額以下の定価で販売されたお買い得レンズで、中古市場でも割安価格で手に入ります(見つけるのが大変ですが)。
1974年発売のFD85ミリF1.8では3群目も2群目と同じく凹凸2枚張り合わせの4群6枚ガウス構成に設計変更され、このレンズは製造終了となります。発売後実に13年間現役だった訳で、大変息の長い設計寿命となりました。隠れた名玉です。
キヤノン85ミリF1.8作例1「飛翔」 コニカヘキサーRF、キヤノン85ミリF1.8、F5.6、1/500秒、フジクロームベルビア100 |
キヤノン85ミリF1.8作例2「編隊飛行」 コニカヘキサーRF、キヤノン85ミリF1.8、F5.6、1/500秒、フジクロームベルビア100 |
(←構成図)4群5枚 クセノタータイプ 画角:28度 最小絞りF22 最短撮影距離1m フィルター径:58mm 重さ:470g(実測) 発売:1961年 |
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