ジュピター12 35ミリF2.8(Lマウント)

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キヤノンIVSb
ジュピター35ミリF2.8、F2.8
1/45秒
ネオパン100アクロス
(ミクロファイン原液22℃8分半)

 幸いなことに現在吾輩が所有する唯一のロシアンレンズです。今ではすっかり下火になりましたがこのサイトの執筆時はまだ某タナカチョートク氏とやらの影響でロシアンカメラがブームでして、吾輩の駆け出しの頃(まあ15年前と思いねえ)は日本の一部上場企業からLマウントの交換レンズが発売されるなんて考えられない時代だったのでロシアンレンズは最後の聖域のようにもてはやされていたものでした。
 でも実際、購入して後悔した輩の方が多いんでないか?。当方もかつてFED(フェド)5なんぞを悪友から勧められて購入したがシャッターダイヤルのまるでゼンマイを巻き上げるかのごとく重さ(本当にスロー側に回す時は「巻き上げる」という感触です。スローガバナーをシャッターダイヤルでチャージするなんて日本ではまず考えられない設計)に嫌気が差して2週間で売り飛ばしてしまいました。買値と同じ値段で売れたのだからたいしたもんだが。で、今手元にあるのは交換レンズのジュピター35ミリF2.8のみ。

 戦後ドレスデンに進駐したソ連軍が戦後のどさくさでカールツァイスの工場設備を根こそぎ略奪していったのは有名な話。竹田正一郎氏の記事によると生産設備や在庫部品どころか工場の壁や天井や便器までも持ち去られていたそうな。便器まで......
 もともとはコンタックスコピーの「キエフ」用交換レンズだからコンタックスマウントなのだけど、鏡胴だけ設計しなおしてフェドやゾルキー用のLマウントもあります。
 そういう経緯からこのレンズは戦前型のカールツァイス「ビオゴン35ミリF2.8」のデッドコピーらしいとまことしとやかにウワサが流れておりますが、改めてレンズ構成図を比較してみると、「参考にはしたが完全な新設計」であることがわかります。特に2群目は3枚張り合わせから2枚張り合わせに簡略化されていることがおわかりでしょうか?オリジナルの複雑さを簡略化し対称性は向上しております。
 ロシアンカメラ本体で痛い目に合った人でもレンズだけならば購入する価値はあるでしょう。レンズがいきなり壊れるって事はないだろうしロシアンカメラに付き物の光線引きもボディはドイツか日本製の良いヤツを探せばよいことですから。

 このレンズ、ロシアンレンズでもこれだけ美しい描写するんだと感激する出来です。んな事書いたら「当たり前だ!このレンズの元設計はオレだ!」と故ルードビッヒ・ベルテレ博士が草葉の陰で怒鳴って来そうなのでやめときます。とにかくピントは開放から良好。あとバックボケが35ミリF2.8の水準を越えたボケ方です。おそらく残存した非点収差の影響でしょうが、キヤノンやズマロンの35ミリよりもボケの量が大きくてふわっとしたバックボケが楽しめます。
 うんうん、さすが元の設計がビオゴンだけあって見事なヌケ&直線。プリントに定規を当ててみたいくらい(笑)。
雨の日もなかなか悪くない。
 作例はキヤノンIVSbに装着しております。後玉のでっぱりのせいでライカM6コニカヘキサーRFに装着すると
TTL露出計の受光部が隠れてしまうため露出が1絞りほどオーバーになってしまいます。露出計はアテにならないので最初っから露出計の着いていないライカIIIaとかに装着することをお勧めします。
あと、キヤノンL2のように遮光板が巨大な後玉に干渉してまったく装着不能な機種もありますので購入時に注意が必要です。
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(←レンズ構成図)
4群6枚
最短撮影距離:1m
フイルター:40.5mm
最小絞り:F22
重さ:104g
発売:1956年
左が元祖ビオゴン35ミリf2.8(戦前型)のレンズ構成図。
右が今回のジュピター35ミリF2.8の構成図。