キヤノン50ミリF0.95

 出たっ!真打ち登場。これぞ泣く子も笑うF0.95!。もうこれを紹介したくてこのHPを立ち上げたようなもんです(笑)。
 1950年代半ばから始まったカメラメーカーの大口径化競争の過熱振りは今なおクラカメファンの間では語り草になっています。セレナー50ミリF1.8、ニッコール50ミリF1.5、フジノン50ミリF1.2、ズノー50ミリF1.1等等...。まさにコンマ幾つの数字争いでした。そういったレンズが現実にどのような利用目的があったかどうかの議論もありましたが、この開発競争が後の一眼レフ用レンズ設計の貴重なノウハウを残すことになったのは事実です。
 この大口径化競争にピリオドを打ったのが1960年の旧西独フォトキナに出品されて世界中を驚愕させたこのキヤノン50ミリF0.95です。このレンズを見た西独の政財界のお偉方が「お前らもなんとかせいっ!」とツァイスやライツといった当時の名門カメラメーカーをせっついたというのも有名なハナシ。このレンズにあわててライツがノクチルックス50ミリF1.2(世界初の写真用非球面レンズ)を発売したのは1966年のことですから当時のカメラ誌上での驚きも理解できます。 設計は向井二郎。
 このレンズ、あまりにも後玉が大きすぎて従来のLマウントでは収まりきらないのでこのレンズはキヤノン7専用としてマウント外爪用になっております。最近ではこのレンズをライカMマウントに改造するのが流行っているようですが、私はまだオリジナルのままで所有しています。
 気になる画質ですが、2−3m以上離れた被写体でなら予想以上に「普通の」写りなので拍子抜けします。ただまだフローティング(近距離収差補正)機構のない時代の大口径レンズなので2m未満の至近距離になると像面湾曲が急激に増大して周辺部はものすごい流れが出て画面中心部しかピントが合わないとんでもない事になります。このレンズを手にするとついつい大口径レンズならではのボケ味を確かめたくて最短撮影距離寸前まで近づいてバストアップでポートレイトを撮りたくなりますが、このレンズでマトモな写真を撮りたければ「あまり被写体に近づかない事。そして日の丸構図を心がける事。」です。実に撮影環境を選ぶレンズです。
 どうもこのレンズは個体により描写に当たりはずれが大きいらしく、筆者の個体の作例をこのレンズを所有している他のオーナーに見せると「お前、これ少し絞っているんだろう!」とか「君の0.95は特別にアタリのタマに当たったようだな。」などと言われます。
 吉田正太郎氏によるとこのレンズは「ガラスはオハラ製で、前から順にLaSK(重ランタンクラウン)02、BaF(バリウムフリント)10、LaK(ランタンクラウン)13、SF(重フリント)4、F(フリント)16、LaSF(重ランタンフリント)01、LaSF01です。このうちLAK13は良質の材料を得やすいのですが、そのほかはみな製造困難、耐酸性や耐候性不良、屈折率のバラツキ、着色などの問題点に結びつきやすいガラスです。7枚構成にしたために、ガラスに負担がかかってきたのです。」(写真レンズの科学/地人書館/1997年)とあります。レンズの枚数を減らして実用的な重さに抑えるために品質が不安定でリスクの高い高屈折ガラスを惜しげもなく使った事が伺えます。でも、こういう話を聞くと、恐ろしくて屋外に持ち出す勇気がありません(恐)。
 という訳で吾輩はこのレンズ、ほとんど室内エロ写真専用に使っておりますが、当サイトは一応健全系(全年齢対象)なのでヌードは厳禁。ぎりぎりのところでビスチェ姿のおねえさんでいきます。

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(←構成図)
5群7枚変形ガウスタイプ
画角:45度
最小絞りF16
最短撮影距離1m
フィルター:72mm
重さ:645g(実測)
発売:1961年
↑作例「わたしのテディベア」
キヤノン7、キヤノン50ミリf0.95、f0.95,1/60秒
エクタクロームダイナハイカラー100