ACT−1 まずは歴史のおさらいから

まず、ミノックスとは何かという説明からしなければなりませんね。1937年の初代発売以来60年以上にわたって超小型カメラの王座に君臨し、戦後冷戦下ではスパイカメラとして実際に利用された孤高のカメラ。それがミノックスです。ここでは筆者が10年間に私蔵(死蔵?)したコレクション(ガラクタ)や作例を中心に紹介していきたいと思います。
 なお、ミノックス35シリーズのファンの方々には申し訳ありませんが35ミリ判および110判、APS判のミノックスは今回取り上げていません(って言うか持っていないし....)。

 ミノックスは1937年、バルト3国の一つラトビア共和国にある国策電気会社バルスト電気(VEF)から発売された8×11ミリ判の超小型カメラです。
 上の画像は集英社のヤングジャンプコミックス「新・栄光なき天才たち」2巻(森田信吾著)より引用しましたバルスト電気の社屋と発案者ワルター・ツァップ(左)と当時のバルスト電気社長ビトルス博士(右)。
 ワルターツァップ氏は1905年ウクライナ生まれ。ラトビア人だった氏は帝政ロシア時代冷遇され、過酷な少年時代を過ごしていたようです。幼少時よりカメラに興味があった氏は工業専門学校に通っている間にアルバイトしていた写真館で写真術を学び、そのころ印画紙カッターの特許もとっています。いつか自分でカメラを設計したいと思った氏は1935年に自作の超小型カメラを手に友人と共にラトビアに亡命。越境途中に友人はソ連国境警備隊に射殺され(右画像)彼一人だけが越境に成功します。氏はドイツで自作の超小型カメラを当時のライカやツァイスに売り込んだのですが相手にされず失意のままラトビアに帰国。そこで生活するために就職したバルスト電気にてなぜかその試作機が社長のビトルス博士の目に止まり開発計画がスタートします。

 バルスト電気は当時ラジオや真空管などを開発していた国策電気会社でしてカメラなどの光学製品はつくっていません。デジカメ時代の現代でこそ家電メーカーが高級カメラを作る事は珍しくありませんが当時としては信じられない異業種参入であり、今なお20世紀カメラ史の謎とされています。
 森田信吾氏は漫画の中でビトルス博士に「考えて欲しい。わがラトビアが国家の存亡さえ危ういと言われる世界情勢を!」「諸君、歴史に残る世界最小の超精密カメラを作り出し、小国ラトビアの意地を世界に知らしめよう!」と語らせています。実際にそのようなやりとりがあったかどうかは多少のフィクションが含まれているので定かではありませんが、スターリン政権のソ連とナチスドイツに板ばさみにされ、いつどちらかの国家に吸収されるかどうかわからない切迫した情勢の中、国家が存続する間に「MadeInRatvia」の名が冠されたカメラを後世に残したかったであろうことは疑いようがありません。


 実際にはツァップ氏はカメラメカニズムに関してはシロウトでバルスト電気自体もカメラやレンズの設計技術はなかったのによくぞここまで精密なカメラを作れたと思うのですが、この頃ラトビアにはナチの迫害を逃れてきたツァイスやデッケル社(コンパーシャッター)のユダヤ人技術者が大勢亡命しており、ツァップ氏は彼らをミノックス開発計画(ミニマッチボックス計画)に呼び込んだのです。ですからツァップ氏はライカやハッセルをゼロから設計したオスカー・バルナック博士やヴィクター・ハッセルブラッド博士のような「考案者」ではなく「発案者」または「開発コーディネイター」だったというのが今日の定説です。
 初代ミノックスは1942年のナチスのラトビア侵攻後に生産停止。開発スタッフは終戦後ラトビアがソ連に再吸収される前にドイツに亡命。ウェッツラー(ライツ本社がある都市)近郊の米国管理化の難民収容キャンプにて持ち出した部品でミノックスを製作(ボディ背面にMadeInRatviaともUSSRとも書かれていないミノックスはこの時の製品です)。その間、ツァップ氏はドイツギーセンの葉巻タバコメーカー、リン社の後援を得て1946年に新会社「ミノックス社」を創立。現在に至っています。
 ミノックス社は1995年に一度倒産しましたがソルムスのライカ社に救済合併してもらい業務建て直しをはかり、デジタルカメラと双眼鏡事業を建て直し、2004年には会社更生を完了し独立企業として再出発しています。現在も工場はギーセンにて稼動中です。近年は日本の浅沼商会からアクメルシリーズやSHARANシリーズのOEM供給も受けてラインナップを強化中。ツァップ氏は1961年に社内での対立から退社し、スイスに隠遁。享年97歳という長寿をまっとうし、2003年7月17日、波乱に満ちた人生に幕を下ろしました。
 
 ちなみに現在ラトビアのリガ市は北海道上川管内の「写真の町」こと東川町と姉妹都市提携を結んでいまして意外なところで身近な町です。

まずは歴史から...

各機種の詳しいスペックが知りたいお方はこちらをクリック!(でも画像が重たいので覚悟してね”▽”)

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戦前のバルスト電気社屋 ワルター・ツァップ(左)とテオドール・ビトルス(右) 亡命途中に銃殺された友人
←ミノックス各型紹介
左から順に
リガミノックス
(1937年)
ミノックスII(1948年)
ミノックスIII(1951年)
ミノックスIIIS
(1954年)
ミノックスB(1958年)
ミノックスBL
(1972年)
ミノックスC(1969年)
ミノックスEC
(1981年)
ミノックスAX
(1994年)
ミノックスLX(1978年)
ミンックスTLX(1996年)
資料提供:栗山孝信氏
切手にも
なっています
提供:
PNむーみん谷の
PKカメラマン氏