伝説に彩られた名機、名玉とよばれるものを実際に使ってみると「伝説」の実態が実はお粗末なものだということが分かって愕然とすることがある。このレンズは典型的なそれである。
タンバールといえばライカ発売10周年を記念して発売されたレンズで、ライカが手がけた唯一のソフトフォーカスレンズ。故木村伊兵衛氏の作品で有名である。筆者も縁あってこのレンズで写真を撮る幸運に恵まれた。
一般にソフトフォーカスレンズはハロを発生するために球面収差をマイナス側(補正不足)に残存させて設計するのが定石だが、なぜかこのタンバールは球面収差曲線がプラス側(補正過剰)に傾いている。
球面収差は補正不足でも補正過剰でもボケるのは同じだが、バックのボケは大きく異なる。補正不足の場合、ピントを合わせた部分とバックは大きくボケるが逆に前ボケは堅くなる傾向がある。一方このタンバールのように補正過剰にした場合、前ボケは美しくボケるが背景のボケは堅い2線ボケになるのだ。
また、タンバールはボケを増幅させるために中心部の光を遮断するセンターフィルターを装着するがこれまたまずい。つまり球面収差が少ない中心光軸をフィルターで塞いで、球面収差が大きい周辺部の軸外光束のみで写真を撮る訳だが、光軸の中心部を塞いでいるためにまるで反射望遠レンズのようなドーナツボケが発生してしまうのである。バックボケが汚いソフトフォーカスレンズとは致命的である。そのため、後年タンバールの方式を真似たレンズは私の知る限り記憶に無い。
あまり悪口を書くとファナティックなライカフリークから反発を買うのでちょっぴり良いところも書こう。ノンコーティングのレンズにしてはカラーバランスは良好で現代の水準から言ってもかなり発色は鮮やかだ。これが唯一の救いという所か?。
(←レンズ構成)
3群4枚
画角:27度
最小絞りF25
最短撮影距離1m
フィルター:48mm
重さ:500g
↑作例「クロッカス」
データ:キヤノンVIL、タンバール90ミリF2.2
F2.2、1/125秒、センターフィルター使用
フジクロームプロビア100
←資料協力
板垣和夫氏